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【The Story】vol.5 ジム・トンプソン(後編)

昨年9月より6回にわたり毎回ひとりの人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーを 東京・大阪・名古屋のショールームブログよりリレー形式でお届けしています。 ― ××× ―― ××× ―― ××× ―― ××× ―― ××× ―― ××× ―― ××× ―― ××× ―― 【The Story】第5回目後編は、“Jim Thompson (ジム・トンプソン)” 現在このブランドを支えるふたりの若きクリエイターたちのお話。 ◆Jim Thompson―Ou Baholyodhin(ウー・バホリヨディン)― こちらのビシッときめた男性はOu Baholyodhin(ウー・バホリヨディン)。 現在ジム・トンプソン社のクリエイティブディレクターを務めています。 1966年にタイ・バンコクで生まれ、ロンドン大学では建築学を専攻、 その後、フィレンツェでテキスタイルを、英キングストン大学にて家具・プロダクトデザインを習得。 卒業後はロンドンで家具デザインのスタジオを構えると同時に、国際的なコンペティションで次々と賞を受賞するなど、 デザイナーとしてのキャリアを華々しくスタートさせます。 ちょうどそんな時期、インテリアデザインコンサルタントとして携わったプロジェクトがジム・トンプソン社のもので、 展示会の家具・デザイン・ブランディング・マーケティングをコンサルタントとして統括するポジションに従事しました。 2013年からはジム・トンプソン社のホームファニシング部門のクリエイティブディレクターに就任しますが、 バホリヨディンは、自らをテキスタイルデザイナーとは考えていません。 多くの優れたデザイナーがそうであったように、自分が受けた(または見る側に与えたい)インスピレーションを どう表現するかに、特定の媒体を必要とはしていないからです。 つまり、重要なのはどのようにファブリックが使われるのかという最終スキームを把握すること。 Instagram@jimthompsonfabrics 2016年の来日インタビューでも、デザインすることについてこのように語っています。 「家具からインテリア、商業施設のデザインやパーティ、テーブルウェアまでさまざまな手段をとおして デザインを創造することの変化と実験は、とてもエキサイティングな作業なんだよ!」 そんなバホリヨディンのデザインはタイの精神性と西洋のエッセンスを融合させたリッチで上品なデザインが魅力。 それはまるでジム・トンプソンが現代に甦ったような感動を覚えます。   2014年「Arun」 熱帯性気候のタイでは雨季になると、ひと月の半分が雨になります。 ひとたびスコールが来れば人々はそれぞれの家屋に戻り、動物たちは大きく茂った木陰に身を潜ませ、 人も動物たちもただ 熱帯雨林に降り注ぐ雨の音と雷の轟きに耳を澄ませる静寂の世界。 そこには自然への畏敬、仏教における調和の世界が生まれます。 2017年『Floriental』コレクション                2012年『Spotlight』コレクション やがて長く静かな雨季が明ければ、喜びの収穫期が訪れます。 絢爛の仏教寺院や宮廷に供えられる色とりどりの果実に、色鮮やかな絹で着飾られた仏僧や仏像たち。 市街には色が溢れていたことでしょう。 そんな陰と陽が織りなす伝統の中に生きる、色やモチーフを大胆に取り入れ、 常にその時代にフィットした絶妙なバランスで見事なデザインに仕上げるのがバホリヨディンの流儀。 それはかつてトンプソンがタイを訪れ初めて目にした光景の感動をそのまま、現在に再現させたかのようです。   2017年『Floriental』コレクション そんなバホリヨディン率いる2018年新作コレクションは、『EVERY COLOUR UNDER THE SUN』。 タイシルク商会でシルクの販売を始めてから60周年という節目の年にちなんで、改めてシルクの美しさを再認識し、 これまで以上にジム・トンプソン氏への敬意を込めたコレクションに仕上がっているのだそう。   『EVERY COLOUR UNDER THE SUN』コレクション    『Bardo』コレクション「Sagano」 そして2018年の新作で注目すべきはベルギーの素晴らしいデザイナーであり、「色の魔術師」との異名をもつ Gert Voorjans(ガート・ボージャン)とのコラボレート作品! これまでのジム・トンプソンのデザインにはなかったような新たな世界観を展開しています。 Instagram@jimthompsonfabricsより 同郷のファッションブランド、ドリス・ヴァン・ノッテンの旗艦店のデザインを手掛けるなど、 インテリアデザイナーとして世界的に活躍するボージャンと、バホリヨディンは長年の友人だそう。 ボージャンのどこかゴシックでアーティスティックなデザインと、 オリエンタルなジム・トンプソンが織り成す化学反応をぜひお楽しみください。(※1)   「Melusine」3689/03             「Aeneas」3683/01 ◆ No.9 Thompson ―Richard Smith リチャード・スミス― 続いては相棒とのツーショットが癒されるこちらの男性。 No.9 Thompson(ナンバーナイン・トンプソン) のクリエイティブディレクター Richard Smith (リチャード・スミス)です。 2006年から発売されたジム・トンプソンのもう一つの顔、No.9は 2015年のイギリスのインテリア誌「House & Garden」のファブリックアワードを受賞するほか、 2016年には先日も開催されたばかりのパリ デコオフにてベストコレクションを受賞し、 現在世界から注目を集めるブランドのひとつに成長しています。   2014年『Butterfly House』コレクションより    No.9 Thompson HP  リチャード・スミスのデザインの多くは彼のデッザンやハンドペイントから生み出されます。 イギリスのサセックスにある海を臨む開放的なスタジオで描かれる水彩のペイントは、 まるで乾いた海風を待ち受けるかのような、軽く柔らかなコットンやリネン地にプリントされます。 そのデザインのモチーフは南はアフリカ・ブラジルから、北はスカンジナビアンデザインまで、 世界中の古くから伝わる伝統的な文様や、文化からインスピレーションを得ています。   2015年「Dragon Dance」 こちらを見据えて威嚇するドラゴンは、リチャード・スミスの優しいタッチと色使いでどこか愛嬌のあるキャラクターに。 2016年に発表した『OBI』、『ORIGAMI』コレクションはその名のとおり日本がモチーフになっています。 川端に咲くアヤメをデザインしたこちらの「Water Garden」は、尾形光琳の「八橋図屏風」へのオマージュでしょうか。 そしてもうひとつ特筆すべきは、アウトドアコレクション(※2)の豊富さです。 ジム・トンプソン社ではかつてトンプソンの理念であったように、これまでにない生地の研究開発に力を入れていました。 特にタイというその気候柄、対候性とデザイン性優れる生地の開発はトンプソンが生きていれば、 情熱をかけて取り組んでいたテーマでしょう。 2012年の発売からこれまで5種類のコレクションが発売されています。   2015年『Fez outdoor』コレクション      2017年『Colourfield outdoor』コレクション 今季発売されるコレクションでもアウトドア仕様の生地はもちろん、地中海の色彩やローマの古代遺産からのモチーフを デザインに取り入れた爽やかな2つのコレクションが発表されます。 早くも今年の夏が待ち遠しくなるような、リゾート風のコーディネーションにぴったりなコレクションとなりそうですね。   2018年『Aegeus』コレクション 2018年『Surf’s Up outdoor』コレクション さて、ジム・トンプソンの意思を引き継ぎつつ、現在の彼らにしかできない手法で、新しい”ジム・トンプソン”の一面を 展開しているウー・バホリヨディンとリチャード・スミス。 トンプソンが生きていたらこの2人のデザイナーをどう評するでしょうか。 なかなか面白いことをやっているじゃないか! そう笑顔で答えてくれるはずです。 過去そして新しい挑戦へと、60周年を超えてますます目が離せないジム・トンプソンに、どうぞご期待ください! 「わしも一緒に作りたい・・・」   ※1 ジム・トンプソン、ナンバーナイン・トンプソン2018年コレクションは日本未発売です。 発売時期についてはHPにてご確認下さい。 ※2 ここでご紹介したアウトドア生地とは組成における対候性を指しており、 撥水効果についてはその範囲でありません。 【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス 【The Story】vol.2 ニナ・キャンベル 【The Story】vol.3 マシュー・ウィリアムソン 【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(前編) 【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(後編) 【The Story】vol.5 ジム・トンプソン(前編)