刺繍が織りなす「地上の楽園」MELSETTERコレクション
MORRIS & Co.(ウィリアム・モリス)より新作コレクションの
『MELSETTER(メルセッター)』が発売されました。
昨年の『Pure Morris North』を除けば、メインコレクションとしては約2年ぶりの新作です。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/melsetter-500x500.jpg)
これまでのMORRIS & Co.の作品を見ている方からすると、
いつものモリスらしくないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
それもそのはず。
今回のコレクションは、アーツ・アンド・クラフツ運動の
重要な人物の一人であったウィリアム・モリスの娘、
そして1900年代初頭の刺繍作家の第一人者でもある、
MAY MORRIS(メイ・モリス)の作品にフィーチャーしたコレクションであるからです。
このコレクションはMORRIS & Co.の新たなデザインレンジを広げると共に、
あまりにも著名であった父、ウィリアム・モリスの陰に隠れてしまった、
一人の女性の功績にスポットライトを当てるものとなりました。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/morris-may-500x321.jpg)
William Morris May Morris
ウィリアム・モリスといえば、デザイナー・詩人・社会思想家、そして
アーツ・アンド・クラフツ運動の創設者として、
近代史に大きな影響を与えた人物として有名です。
これまでもマナトレーディングでは機会あるごとにその功績をご紹介してきました。
メイは父モリスの才能を一身に受け継いだ女性であったと言えるでしょう。
1860年、画家を志していたウィリアム・モリスは、
絵の師匠的立場であったダンテ・ガブリエル・ロセッティの紹介で
アートモデルのジェーン・バーデンと出会い、結婚します。
1862年3月。メイ・モリスは父モリスが28歳の時に生まれました。
メイには一歳年上の姉ジェニーがいましたが、
幼少期からてんかんの病を抱えていたため、両親の注意は自然と姉へ向けられます。
さらにロセッティとジェーンの関係をめぐって、両親の仲がこじれていくのを
幼いながらも感じ取っていたメイは、寂しさから逃れる為にスケッチや刺繍にのめりこみます。
刺繍の名手でもあった母、ジェーンの影響も大きかったのでしょう。
メイは次第にその才能を開花させていきました。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/may-sketch-age15.jpg)
, メイが15歳の頃に描いたケルムスコット・マナー
メイは父であるモリスを大変慕っていました。
彼女自身がアートのスキルを身に付けることで、
将来父の事業をサポートをしたいと考えていたようです。
国立芸術研究所(現:ロイヤル・カレッジ・オブ・アーツ)にて
芸術と刺繍を学んだメイは卒業後、モリス商会にて父のアシスタントを務めます。
実は、鳥を描くのが苦手であったモリス。
その父に代わって一部の作品において、鳥のデザインをしていたのはメイだったのだとか…
「Bird & Anemone」 design by William Morris
彼女が最初にデザインした「Honeysuckle(ハニーサックル)」は、
現在もMorris & Co.を代表するデザインの一つです。
「Honeysuckle」 design by May Morris
1885年、23歳となったメイは商会の刺繍部門のディレクターとなりました。
, ちなみに、女性の社会進出が困難であったこの時代、メイの姿は当時の女性たちにとって
, 憧れの存在であり、先進的な女性像の一つであったと言えます。
, 後年、モリスの死をきっかけに商会を離れたメイは、
, フリーランスの刺繍作家として活動し、デザインの幅を拡げると共に、
, モリスの社会運動を引き継ぐ形で、女性の為のデザイン産業組合(Women’s Guild of Arts)を
, 発足させ、イギリス各地やアメリカで講義を行うなど精力的に活動し、
, アーツ・アンド・クラフツ運動において重要な人物の一人となります。
さて、ディレクターになったメイと、モリスの弟子であったジョン・ヘンリ・ダールによって、
刺繍はモリス商会のビジネスとって一つの柱となります。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/fruit-garden.jpg)
メイの代表的なデザイン「Fruit Garden」です。
このモチーフはタペストリーやカーテン、本の装丁などにたびたび用いられました。
(現在はFruit Garden 名の商品はありません。)
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/kelmscott-monar-500x372.jpg)
ケルムスコット・マナーのベッドには、
このFruit Garden のモチーフと、モリス初期のデザインである
「Trellis(トレリス)」の
垣根格子や鳥を基にした美しいカーテンを作成しています。
これは現在
「Kelmscott Tree(ケルムスコット・ツリー)」としてパターン化され、
ハニーサックルと共にマナの在庫品コレクションでも不動の人気を獲得しています。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/melsetter-WP-498x500.jpg)
さて、今回のコレクション
『MELSETTER(メルセッター)』は、スコットランドのホイ島にある
メイの友人ミドルモア氏の邸宅、メルセッターハウスの為に
作成された刺繍作品を基にしたコレクションです。
メインはこの家のベッドカバーからインスピレーションを受けたデザイン、
「MELSETTER(メルセッター)」。
オリジナルは刺繍のデザインですが、
今回のコレクションではフレスコ画調のプリント生地と壁紙で表現。
Fruit Gardenをベースに、果樹の周りを飛び交う鳥や花々で溢れる幸福感に溢れたデザインです。
壁紙ではオリジナルデザインを忠実に再現しており、
バラの蔦は垣根を越えて伸び広がり、足元には小さな野ウサギも…!
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/seasons-by-may-images-500x234.jpg)
こちらは
「Seasons by May Embroidery(シーズンズ バイ メイ エンブロイダリー)」。
ファイアスクリーン(暖炉用のついたて)用に、
四季をテーマに連作で発表した一つ、「Spring and Summer」からインスパイアされたデザイン。
鳥やチューリップは複数色の糸で刺繍され、
グラデーションを帯びて立体的に表現されています。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/Theodosia-Embroidery-500x497.jpg)
こちらは
「Theodosia Embroidery(セオドシア・エンブロイダリー)」
ミドルモア氏の妻であるセオドシアの名前が付けられた作品です。
フォレストグリーンのベース生地にパーシモン・ゴールド・アクアブルーなどの光沢糸で
刺繍された花々は、上品かつスタイリッシュな雰囲気を演出します。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/middlemore-up-497x500.jpg)
「Theodosia Embroidery」と一緒に施工されているグリーンの壁紙は
メイのキルト刺繍のデザインからインスパイアされた
「Middlemore(ミドルモア)」。
絵本の挿絵に登場しそうな可愛らしい動物たちが描かれています。
淡い配色のものは、子供部屋にもおすすめです。
後に芸術学校で教鞭をとるほどであったメイの熟練した技術と、
魅力的なデザインが堪能できるコレクションに仕上がりました。
美しい刺繍の数々はずっと見入っていたくなってしまうほど!
これらの生地を用いて作られたカーテンやベッドカバー、テーブルクロスに
囲まれたメルセッター・ハウスは実に見事であったことでしょうね。
![](https://blog.manas.co.jp/wp-content/uploads/2019/07/DSC_0249-500x500.jpg)
東京ショールームでは、7月下旬からメルセッターコレクションのディスプレイを展示します。
ディスプレイの写真は
Instagramでも公開予定。
メイ・モリスが刺繍で表現した「地上の楽園」を、
ぜひお近くのショールームにてご覧ください。