MORRIS & Co.(ウィリアム・モリス)より新作コレクションの
『MELSETTER(メルセッター)』が発売されました。
昨年の『Pure Morris North』を除けば、メインコレクションとしては約2年ぶりの新作です。
これまでのMORRIS & Co.の作品を見ている方からすると、
いつものモリスらしくないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
それもそのはず。
今回のコレクションは、アーツ・アンド・クラフツ運動の
重要な人物の一人であったウィリアム・モリスの娘、
そして1900年代初頭の刺繍作家の第一人者でもある、
MAY MORRIS(メイ・モリス)の作品にフィーチャーしたコレクションであるからです。
このコレクションはMORRIS & Co.の新たなデザインレンジを広げると共に、
あまりにも著名であった父、ウィリアム・モリスの陰に隠れてしまった、
一人の女性の功績にスポットライトを当てるものとなりました。
William Morris May Morris
ウィリアム・モリスといえば、デザイナー・詩人・社会思想家、そして
アーツ・アンド・クラフツ運動の創設者として、
近代史に大きな影響を与えた人物として有名です。
これまでもマナトレーディングでは機会あるごとにその功績をご紹介してきました。
メイは父モリスの才能を一身に受け継いだ女性であったと言えるでしょう。
1860年、画家を志していたウィリアム・モリスは、
絵の師匠的立場であったダンテ・ガブリエル・ロセッティの紹介で
アートモデルのジェーン・バーデンと出会い、結婚します。
1862年3月。メイ・モリスは父モリスが28歳の時に生まれました。
メイには一歳年上の姉ジェニーがいましたが、
幼少期からてんかんの病を抱えていたため、両親の注意は自然と姉へ向けられます。
さらにロセッティとジェーンの関係をめぐって、両親の仲がこじれていくのを
幼いながらも感じ取っていたメイは、寂しさから逃れる為にスケッチや刺繍にのめりこみます。
刺繍の名手でもあった母、ジェーンの影響も大きかったのでしょう。
メイは次第にその才能を開花させていきました。
, メイが15歳の頃に描いたケルムスコット・マナー
メイは父であるモリスを大変慕っていました。
彼女自身がアートのスキルを身に付けることで、
将来父の事業をサポートをしたいと考えていたようです。
国立芸術研究所(現:ロイヤル・カレッジ・オブ・アーツ)にて
芸術と刺繍を学んだメイは卒業後、モリス商会にて父のアシスタントを務めます。
実は、鳥を描くのが苦手であったモリス。
その父に代わって一部の作品において、鳥のデザインをしていたのはメイだったのだとか…
「Bird & Anemone」 design by William Morris
彼女が最初にデザインした「Honeysuckle(ハニーサックル)」は、
現在もMorris & Co.を代表するデザインの一つです。
「Honeysuckle」 design by May Morris
1885年、23歳となったメイは商会の刺繍部門のディレクターとなりました。
, ちなみに、女性の社会進出が困難であったこの時代、メイの姿は当時の女性たちにとって
, 憧れの存在であり、先進的な女性像の一つであったと言えます。
, 後年、モリスの死をきっかけに商会を離れたメイは、
, フリーランスの刺繍作家として活動し、デザインの幅を拡げると共に、
, モリスの社会運動を引き継ぐ形で、女性の為のデザイン産業組合(Women’s Guild of Arts)を
, 発足させ、イギリス各地やアメリカで講義を行うなど精力的に活動し、
, アーツ・アンド・クラフツ運動において重要な人物の一人となります。
さて、ディレクターになったメイと、モリスの弟子であったジョン・ヘンリ・ダールによって、
刺繍はモリス商会のビジネスとって一つの柱となります。
メイの代表的なデザイン「Fruit Garden」です。
このモチーフはタペストリーやカーテン、本の装丁などにたびたび用いられました。
(現在はFruit Garden 名の商品はありません。)
ケルムスコット・マナーのベッドには、
このFruit Garden のモチーフと、モリス初期のデザインである「Trellis(トレリス)」の
垣根格子や鳥を基にした美しいカーテンを作成しています。
これは現在「Kelmscott Tree(ケルムスコット・ツリー)」としてパターン化され、
ハニーサックルと共にマナの在庫品コレクションでも不動の人気を獲得しています。
さて、今回のコレクション『MELSETTER(メルセッター)』は、スコットランドのホイ島にある
メイの友人ミドルモア氏の邸宅、メルセッターハウスの為に
作成された刺繍作品を基にしたコレクションです。
メインはこの家のベッドカバーからインスピレーションを受けたデザイン、
「MELSETTER(メルセッター)」。
オリジナルは刺繍のデザインですが、
今回のコレクションではフレスコ画調のプリント生地と壁紙で表現。
Fruit Gardenをベースに、果樹の周りを飛び交う鳥や花々で溢れる幸福感に溢れたデザインです。
壁紙ではオリジナルデザインを忠実に再現しており、
バラの蔦は垣根を越えて伸び広がり、足元には小さな野ウサギも…!
こちらは「Seasons by May Embroidery(シーズンズ バイ メイ エンブロイダリー)」。
ファイアスクリーン(暖炉用のついたて)用に、
四季をテーマに連作で発表した一つ、「Spring and Summer」からインスパイアされたデザイン。
鳥やチューリップは複数色の糸で刺繍され、
グラデーションを帯びて立体的に表現されています。
こちらは「Theodosia Embroidery(セオドシア・エンブロイダリー)」
ミドルモア氏の妻であるセオドシアの名前が付けられた作品です。
フォレストグリーンのベース生地にパーシモン・ゴールド・アクアブルーなどの光沢糸で
刺繍された花々は、上品かつスタイリッシュな雰囲気を演出します。
「Theodosia Embroidery」と一緒に施工されているグリーンの壁紙は
メイのキルト刺繍のデザインからインスパイアされた「Middlemore(ミドルモア)」。
絵本の挿絵に登場しそうな可愛らしい動物たちが描かれています。
淡い配色のものは、子供部屋にもおすすめです。
後に芸術学校で教鞭をとるほどであったメイの熟練した技術と、
魅力的なデザインが堪能できるコレクションに仕上がりました。
美しい刺繍の数々はずっと見入っていたくなってしまうほど!
これらの生地を用いて作られたカーテンやベッドカバー、テーブルクロスに
囲まれたメルセッター・ハウスは実に見事であったことでしょうね。
東京ショールームでは、7月下旬からメルセッターコレクションのディスプレイを展示します。
ディスプレイの写真はInstagramでも公開予定。
メイ・モリスが刺繍で表現した「地上の楽園」を、
ぜひお近くのショールームにてご覧ください。
昨年9月より6回にわたり毎回ひとりの人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーを
東京・大阪・名古屋のショールームブログよりリレー形式でお届けしています。
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【The Story】第5回目後編は、“Jim Thompson (ジム・トンプソン)”
現在このブランドを支えるふたりの若きクリエイターたちのお話。
◆Jim Thompson―Ou Baholyodhin(ウー・バホリヨディン)―
こちらのビシッときめた男性はOu Baholyodhin(ウー・バホリヨディン)。
現在ジム・トンプソン社のクリエイティブディレクターを務めています。
1966年にタイ・バンコクで生まれ、ロンドン大学では建築学を専攻、
その後、フィレンツェでテキスタイルを、英キングストン大学にて家具・プロダクトデザインを習得。
卒業後はロンドンで家具デザインのスタジオを構えると同時に、国際的なコンペティションで次々と賞を受賞するなど、
デザイナーとしてのキャリアを華々しくスタートさせます。
ちょうどそんな時期、インテリアデザインコンサルタントとして携わったプロジェクトがジム・トンプソン社のもので、
展示会の家具・デザイン・ブランディング・マーケティングをコンサルタントとして統括するポジションに従事しました。
2013年からはジム・トンプソン社のホームファニシング部門のクリエイティブディレクターに就任しますが、
バホリヨディンは、自らをテキスタイルデザイナーとは考えていません。
多くの優れたデザイナーがそうであったように、自分が受けた(または見る側に与えたい)インスピレーションを
どう表現するかに、特定の媒体を必要とはしていないからです。
つまり、重要なのはどのようにファブリックが使われるのかという最終スキームを把握すること。
Instagram@jimthompsonfabrics
2016年の来日インタビューでも、デザインすることについてこのように語っています。
「家具からインテリア、商業施設のデザインやパーティ、テーブルウェアまでさまざまな手段をとおして
デザインを創造することの変化と実験は、とてもエキサイティングな作業なんだよ!」
そんなバホリヨディンのデザインはタイの精神性と西洋のエッセンスを融合させたリッチで上品なデザインが魅力。
それはまるでジム・トンプソンが現代に甦ったような感動を覚えます。
2014年「Arun」
熱帯性気候のタイでは雨季になると、ひと月の半分が雨になります。
ひとたびスコールが来れば人々はそれぞれの家屋に戻り、動物たちは大きく茂った木陰に身を潜ませ、
人も動物たちもただ 熱帯雨林に降り注ぐ雨の音と雷の轟きに耳を澄ませる静寂の世界。
そこには自然への畏敬、仏教における調和の世界が生まれます。
2017年『Floriental』コレクション 2012年『Spotlight』コレクション
やがて長く静かな雨季が明ければ、喜びの収穫期が訪れます。
絢爛の仏教寺院や宮廷に供えられる色とりどりの果実に、色鮮やかな絹で着飾られた仏僧や仏像たち。
市街には色が溢れていたことでしょう。
そんな陰と陽が織りなす伝統の中に生きる、色やモチーフを大胆に取り入れ、
常にその時代にフィットした絶妙なバランスで見事なデザインに仕上げるのがバホリヨディンの流儀。
それはかつてトンプソンがタイを訪れ初めて目にした光景の感動をそのまま、現在に再現させたかのようです。
2017年『Floriental』コレクション
そんなバホリヨディン率いる2018年新作コレクションは、『EVERY COLOUR UNDER THE SUN』。
タイシルク商会でシルクの販売を始めてから60周年という節目の年にちなんで、改めてシルクの美しさを再認識し、
これまで以上にジム・トンプソン氏への敬意を込めたコレクションに仕上がっているのだそう。
『EVERY COLOUR UNDER THE SUN』コレクション 『Bardo』コレクション「Sagano」
そして2018年の新作で注目すべきはベルギーの素晴らしいデザイナーであり、「色の魔術師」との異名をもつ
Gert Voorjans(ガート・ボージャン)とのコラボレート作品!
これまでのジム・トンプソンのデザインにはなかったような新たな世界観を展開しています。
Instagram@jimthompsonfabricsより
同郷のファッションブランド、ドリス・ヴァン・ノッテンの旗艦店のデザインを手掛けるなど、
インテリアデザイナーとして世界的に活躍するボージャンと、バホリヨディンは長年の友人だそう。
ボージャンのどこかゴシックでアーティスティックなデザインと、
オリエンタルなジム・トンプソンが織り成す化学反応をぜひお楽しみください。(※1)
「Melusine」3689/03 「Aeneas」3683/01
◆ No.9 Thompson ―Richard Smith リチャード・スミス―
続いては相棒とのツーショットが癒されるこちらの男性。
No.9 Thompson(ナンバーナイン・トンプソン) のクリエイティブディレクター
Richard Smith (リチャード・スミス)です。
2006年から発売されたジム・トンプソンのもう一つの顔、No.9は
2015年のイギリスのインテリア誌「House & Garden」のファブリックアワードを受賞するほか、
2016年には先日も開催されたばかりのパリ デコオフにてベストコレクションを受賞し、
現在世界から注目を集めるブランドのひとつに成長しています。
2014年『Butterfly House』コレクションより No.9 Thompson HP
リチャード・スミスのデザインの多くは彼のデッザンやハンドペイントから生み出されます。
イギリスのサセックスにある海を臨む開放的なスタジオで描かれる水彩のペイントは、
まるで乾いた海風を待ち受けるかのような、軽く柔らかなコットンやリネン地にプリントされます。
そのデザインのモチーフは南はアフリカ・ブラジルから、北はスカンジナビアンデザインまで、
世界中の古くから伝わる伝統的な文様や、文化からインスピレーションを得ています。
2015年「Dragon Dance」
こちらを見据えて威嚇するドラゴンは、リチャード・スミスの優しいタッチと色使いでどこか愛嬌のあるキャラクターに。
2016年に発表した『OBI』、『ORIGAMI』コレクションはその名のとおり日本がモチーフになっています。
川端に咲くアヤメをデザインしたこちらの「Water Garden」は、尾形光琳の「八橋図屏風」へのオマージュでしょうか。
そしてもうひとつ特筆すべきは、アウトドアコレクション(※2)の豊富さです。
ジム・トンプソン社ではかつてトンプソンの理念であったように、これまでにない生地の研究開発に力を入れていました。
特にタイというその気候柄、対候性とデザイン性優れる生地の開発はトンプソンが生きていれば、
情熱をかけて取り組んでいたテーマでしょう。
2012年の発売からこれまで5種類のコレクションが発売されています。
2015年『Fez outdoor』コレクション 2017年『Colourfield outdoor』コレクション
今季発売されるコレクションでもアウトドア仕様の生地はもちろん、地中海の色彩やローマの古代遺産からのモチーフを
デザインに取り入れた爽やかな2つのコレクションが発表されます。
早くも今年の夏が待ち遠しくなるような、リゾート風のコーディネーションにぴったりなコレクションとなりそうですね。
2018年『Aegeus』コレクション
2018年『Surf’s Up outdoor』コレクション
さて、ジム・トンプソンの意思を引き継ぎつつ、現在の彼らにしかできない手法で、新しい”ジム・トンプソン”の一面を
展開しているウー・バホリヨディンとリチャード・スミス。
トンプソンが生きていたらこの2人のデザイナーをどう評するでしょうか。
なかなか面白いことをやっているじゃないか! そう笑顔で答えてくれるはずです。
過去そして新しい挑戦へと、60周年を超えてますます目が離せないジム・トンプソンに、どうぞご期待ください!
「わしも一緒に作りたい・・・」
※1 ジム・トンプソン、ナンバーナイン・トンプソン2018年コレクションは日本未発売です。
発売時期についてはHPにてご確認下さい。
※2 ここでご紹介したアウトドア生地とは組成における対候性を指しており、
撥水効果についてはその範囲でありません。
【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス
【The Story】vol.2 ニナ・キャンベル
【The Story】vol.3 マシュー・ウィリアムソン
【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(前編)
【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(後編)
【The Story】vol.5 ジム・トンプソン(前編)
昨年9月より6回にわたり毎回ひとりの人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーを
東京・大阪・名古屋のショールームブログよりリレー形式でお届けしています。
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【The Story】第5回目は、タイシルクの代名詞ともいえる“Jim Thompson (ジム・トンプソン)”から、
William Morris (モリス)と並んでファブリックの歴史に名を残す偉人の人生と、
現在のブランドを支える二人の若きクリエイターたちのお話。
今回は前編、ジム・トンプソンその人をご紹介します。
◆JIM THOMPSON ジム・トンプソン
タイへ旅行に行かれた方なら、一度ならずとこのブランドの名前を耳にした事があるでしょう。
ジム・トンプソンの美しいシルクのネクタイやスカーフはタイ土産の定番ですし、
建築家でもあったトンプソンがバンコクに建てたジム・トンプソン・ハウス(現在はミュージアム)を、
ツアーの工程で訪れた方も多いのではないでしょうか。
ジム・トンプソン(本名:James Harrison Willson Thompson)は1906年アメリカの裕福な家庭で生まれました。
プリンストン大学にて建築を学んだのち、新進気鋭の建築家としてNYを拠点に活躍します。
トンプソンは当時より関心を持っていたバレエのステージデザインや衣装の仕事をきっかけに、
インテリアデザイン、ファッション、ショービジネス、アート、メディアの世界での人脈を増やしていきます。
そんな順風満帆に思えた矢先、第二次世界大戦が勃発。
トンプソンは志願兵として入隊。現在のCIAの前身であるOSSに所属しタイ潜入指令の任にあたります。
このタイの地がトンプソンの人生を大きく転換させる舞台となりました。
悠然と流れるチャオプラヤ河、うっそうと茂るジャングルの奥地に静かにそびえる古代の仏塔や寺院たち。
そして力強くも、繊細な彫刻が施される美しいクメール美術の数々。
トンプソンは一目でこの地に魅了されました。
終戦後、彼は建築家としてバンコクの老舗ホテル、
オリエンタルホテル(現:マンダリン・オリエンタル・バンコク)の再建に尽力します。
(トンプソンが商談で使用していたオリエンタルホテル内の「オーサーズ・ラウンジ」。
明るく開放的な空間にジム・トンプソン社の張地で仕立てたコロニアルスタイルのインテリアがよく映えます。)
この時出会ったのが、衰退の一途を辿っていたタイシルクでした。
20世紀初頭に入るとタイの人々の生活様式の変化や外国からの安い絹織物などの流入を受け、
トンプソンが訪れた当時、バンコクではわずか数軒の家族が絹織物生産を続けていたのみと言われています。
トンプソンのタイの伝統文化・美術への敬意が、クメールの女神を微笑ませたのか
このシルクと出会ってわずか5年で、彼はタイシルクの国際的な地位を確立していきます。
1947年。トンプソンは早速、この魔法のように美しいシルクの見本を抱えて、NYに舞い戻ります。
エメラルドグリーンとマゼンダ、ターコイズブルーとショッキングピンクなど、
エキゾチックで魅惑的な色の組合せは、トンプソンの狙い通りNYの人々を魅了していきました。
NYで築いた人脈を通してタイシルクの評判はたちまち広がり、
ファッションの権威でもあるヴォーグ誌の当時の編集長エドナ・ウルマン・チェイスの称賛を勝ち取ることとなります。
翌年、トンプソンは「タイシルク商会」を設立。
1951年にはまるで成功の道が用意されていたかのように、
シャム国(現:タイ王国)を舞台にしたブロードウェイミュージカル「王様と私」が初演を迎え、
衣装提供をしたタイシルク商会は、ミュージカルの大ヒットと共に一躍タイシルクの名を世界に広めました。
ジム・トンプソンがシルク王といわれる所以は、
タイシルクに着目し世界一流のブランドに登りつめたデザイナーとしてのセンス、
そして養蚕から紡績、織りの作業と伝統的な人の手による技と西洋の技術的革新を融合させ、
地域産業として復興させた実業家としての手腕によるところが大きいでしょう。
現在でもその手法は変わりません。
数千もの家族経営の農場の協力と、自然の中の広大な敷地で
農場・工場・デザインスタジオ・そして研究開発、全ての工程を自社で手掛けています。
その規模はなんと445ヘクタール以上!
ここまで一貫した生産を行っているのは、世界でもジム・トンプソン社だけと言われています。
それは徹底した品質管理、全てのプロセスに必要な専門知識を統合してこれまでに無いファブリックを開発すること、
そして、地元の農家の伝統的な生計手段、文化、尊厳を維持することを目的としているからです。
トンプソンは西洋のファッションやインテリアにも使いやすいコンテンポラリーなデザインや配色を心掛け、
色落ちしない工夫や最新のプリントを技術を導入することで、今までにないタイシルクを開発することに成功しました。
それと共にタイの伝統的絵画やクメール美術に残された優美な柄や色使いを積極的に取り入れています。
妥協なき美の追究とタイの人々と自然との共生は、彼の揺るぎなき信念といえましょう。
さて事業の拡大と共に日々多忙を極めるトンプソンでしたが、
休日の趣味はもっぱら古い寺院を散策することでした。
同様に古美術品の収集家でもあった彼は、自宅にも国宝級の美術品を飾っていたそうですが、
「タイの物はタイに」という思想から、収集したものは全てタイ政府に引き渡すよう遺言に残しています。
タイの芸術を心から楽しみ、敬愛していたことが伺えるエピソードですね。
そんなコレクションの中でも特にお気に入りの絵画がありました。
「Weaving Scene」
生地を織る工程を描いたこの絵は長い間、ジム・トンプソン社のシンボルデザインとして使われてきました。
ここに描かれているのは、まさにトンプソンの夢見た桃源郷そのもの。
かつて戦争の、破壊の最前線にいた彼は、伝統が守られていく事の難しさと尊さを、
その身をもって知っていたことでしょう。
トンプソンが中世のこの風景・文化が復興したことの喜びと、継承していかなければならない矜持をもって
この絵を眺めていたことは想像に難くありません。
さて、その後も映画「ベン・ハー」などハリウッドへの衣装提供や、
タイ王国への貢献を讃えた「白象勲章」の授与、インテリアファブリックへの進出等、
精力的に活動の場を広げていきます。
ところが、その活躍にある日突然ピリオドが打たれます。
1967年3月26日。
イースター休暇でマレーシアの高原へ友人たちと訪れていたトンプソンは、
ディナーまでの空き時間にふらっと散歩へ出かけ、そのまま消息を絶ったのです。
彼はなぜ、そしてどこへ消えてしまったのでしょう。
CIAとして活動していた経歴から政治的陰謀による誘拐説、先住民による捕縛説、
密林でトラに襲われた説、自作自演説・・・等
密林に消えたミステリーとして、消息を絶った当時、莫大な懸賞金と共にさまざまな憶測が瞬く間に世界中に広まりました。
なんてドラマチックでミステリアスな人生!
この物語に魅了されたひとりに小説家松本清張がいます。
彼はトンプソンが失踪したキャメロンハイランドを舞台に、
トンプソンをモデルにしたアメリカ人実業家の失踪劇と日本で起きた殺人事件を
巧妙に絡めた推理小説「熱い絹」を執筆しました。
主人公と共に事件の真相を追いながら、トンプソンが過ごした当時のタイ、マレーシアに広がる
密林や発展途上の街の風景と、失踪における清張の推論を伺い知ることが出来ます。
興味のある方はぜひこちらも読んでみては。
まるでアンリ・ルソーの「夢」のように、
密林に潜む更なる美しい「何か」に導かれるかのように姿を消したジム・トンプソンは、
今でもその美を追い続けているのかもしれませんね。
さてそれから45年―。
2012年ジム・トンプソン社は新しく発売する壁紙コレクションの第1作目としてこちらのデザインを発表しました。
「Jim’s Dream」
トンプソンが愛した「Weaving Scean」のモチーフを再構成し、
年月を重ねた壁画調のデザインが現代のモダンなインテリアにも馴染む上品で美しい作品のひとつ。
これは、ブランドが若きクリエイターたちによってトンプソンの意思が引継がれ、
新しい段階に突入したことを物語っていると言えます。
トンプソンなき現在、彼が築き上げたタイシルク商会は現在2人のデザイナーが
クリエイティブディレクターとしてその手腕を振るっています。
次回はこのふたりについてご紹介していきましょう。
【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス
【The Story】vol.2 ニナ・キャンベル
【The Story】vol.3 マシュー・ウィリアムソン
【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(前編)
【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(後編)
9月より6回にわたり毎月1人の人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーを、東京・大阪・名古屋のショールームブログよりリレー形式でお届けしています。
【The Story】vol.4の主人公はPAORA NAVONE(パオラ・ナヴォーネ)。
“DOMINIQUE Kieffer (ドミニク・キーファー)”のクリエイティブディレクターです。
前編では彼女のプロフィールをご紹介しました。後編では3つのキーワードから彼女のバックボーンに迫っていきたいと思います。
キーワード:旅人
パオラ・ナヴォーネは世界を旅することでも知られています。旅といっても彼女の場合はその土地の人々とふれあう体験型ステイのタイプでしょうか。
本格的な旅は幼いころから憧れていたアフリカから始まり、世界のあらゆる国に出掛けていきました。1980年代初頭から2000年にかけてはアジアを拠点に暮らしていたり。特に東南アジアにはその後も何度も足を運んでいるそうです。
そういった旅の中で現地の人々と交流を持ち、その土地の暮らしや生活道具だけにとどまらず、伝統や文化についても興味を持ち造詣を深めていきました。
彼女をここまで突き動かしたもの、それは「好奇心」です。
国境を越えた長い旅を通して見てきたもの、経験してきたことがインスピレーションの源となり彼女の仕事に大きく影響をもたらしています。
キーワード:アイコン
パオラ・ナヴォーネの代名詞となるアイコンはふたつあります。
ひとつは「FISH」“魚”です。うお座生まれの彼女の作品には、魚のモチーフやオブジェがたびたび登場します。そして彼女は自分自身のことを流れに身を任せて泳ぐ魚のようだとも雑誌インタビューの中で喩えているなど、魚は彼女を表す特別な存在です。
そして「魚」である理由がまだ別にもあります。それは「魚」というものが、どの国でも認識できるユニバーサルデザインだと実感したからです。
彼女は魚のイメージをナチュラルでありながらも楽しいことを表現できるモチーフだと捉える一方で、イタリアと世界を結ぶルーツ、特に彼女が暮らした香港につながるオリエンタルのルーツを示しているのだそうです。
もうひとつのアイコンは色、「BLUE COLOUR」ブルーです。
パオラ・ナヴォーネはナチュラルな色からエネルギッシュな色まで、これまで旅する中で出会ってきた色たちを独特のユニークなセンスで組み合わせ、洗練された美しい世界感をつくりあげています。
その中で際立って目に飛び込んでくるのがブルーです。ではなぜこの色なのでしょうか?
ブルーにはどんな色よりもイメージが膨らむ要素が詰まっているのだとか。
例えば…「やわらかさ」「力強さ」「ナチュラル」「強調」「面白さ」「真面目」「コンテンポラリー(現代的)」「トラディショナル(伝統的)」などなど。
つまり、そこに触れる人々の想像力を掻き立てるブルーを使って、さまざまな印象を表現しているのです。作品の数々に個性豊かなブルーが登場していますので、ぜひ色にもご注目ください。
キーワード:デザインの源
これまで30年以上の間、常に生み出し続けるデザインはどこから発想を得ているのでしょうか。
彼女にとってデザインをする時に心掛けていることは、いつもシンプルに考えること。建築もインテリアも家具もファブリックもまったく区別なくすべて同じ方法で作り出されているのだそうです。どんな方法なのか気になりますよね。
彼女は写真集「Tham ma da」の中でデザインの過程をオムレツ作りでなぞらえています。
コックさんのように、彼女は食べる人のことを想像しながら(きっと鼻歌も交えながら…)まずは食材選びから始めます。例えばマッシュルームとホウレンソウ、そしてトマトの組合せにしようかな~と。そしてお野菜を刻んだら卵と一緒に混ぜ合わせてフライパンへ。
彼女にとっては、食べる人が美味しいね!と喜んで食べてくれるオムレツを作ることがとても大切。だからもしポルチーニが苦手ならズッキーニに替えて作れば良いというそんな柔軟なスタンスで作られているのです。
デザインも同様に最後にクライアントにとって「これがいいね!」って思えるコトを想像しながら考えているのでしょうね。
彼女は完璧を求めてはいません。
むしろ自然なままの状態や不完全なところに面白さを見出しています。
日常にあるありふれた実用的なモノや全く異なる要素のモノを今までにない斬新な方法で利用するのも彼女のデザインの特徴です。この枠にとらわれない発想と実現力が彼女の魅力なのです。
(COMO METROPOLITAN MIAMI BEACH公式HPより)
実際にミラノにある自宅では、タイの工場で不要となった陶器を集めイタリアに持ち帰り、壁の装飾としてお洒落に再利用したり、これまで常識では不可能だと誰も実行しなかったことにも挑戦しています。それは、彼女がアジアに暮らしていた頃からの夢だった、家の中も外も延長上に繋がる家(境界のない家)を造るため。それが彼女にとっての居心地の良い場所の実現だったのです。
インテリアを手掛けたホテルの写真(COMO POINT YAMU, PHUKET公式HPより)
最後に、パオラ・ナヴォーネにとって「美しい暮らし」とはどんなことなのでしょうか。
彼女から返ってきた答えは「Imformal」(インフォーマル)“普段どおりの”でした。
クラシックとシンプルさ、そしてモダンなデザインが融合した洗練された空間。
だけどそこは、かたぐるしさが一切ないリラックスができる場所。エネルギーを蓄え元気になれるところなのだそうです。
1月は東京ショールームブログより「ジム・トンプソン」をお送りします。どうぞお楽しみに。
※これまでパオラ・ナヴォーネがアートディレクションした歴代のコレクションカタログ
(MANASのHPサイトを離れます。またカタログはPDFでの閲覧となりますのでご了承くださいませ)
【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス
【The Story】vol.2 ニナ・キャンベル
【The Story】vol.3 マシュー・ウィリアムソン
【The Story】vol.4 パオラ・ナヴォーネ(前編)
9月より6回にわたり毎月1人の人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーを、東京・大阪・名古屋のショールームブログよりリレー形式でお届けしています。
今回取り上げるのは、11月に発売の「Casa BRUTUS」にも登場したデザイナーのThe Story。
職業… 建築家、デザイナー、アートディレクター、インテリアデコレーター、工業デザイナー、イベントクリエーター、etc.これらすべての顔をもつ女性、PAORA NAVONE(パオラ・ナヴォーネ)が第4回目の主人公です。
これまで【The Story】でご紹介してきた登場人物は、その「名前」=「ブランド名」でした。きっと皆さんにとっても親近感があったのではないでしょうか。ところが、今回はその図式があてはまりません。
イタリアを代表するデザイナーのひとりであるパオラ・ナヴォーネ。
彼女がクリエイティブディレクターを務めるのが、“DOMINIQUE Kieffer (ドミニク・キーファー)”です。
2013年の就任以来、洗練された自然素材をベースに、ニュアンスのあるオリジナルの色彩と質感を特徴としたファブリックを発表し続けています。
MANASの数あるブランドの中で最も「ナチュラル」で、「洗練」「カジュアル」「モダン」というカテゴリーに位置するブランドのデザイナーになります。
(ベェネツィアを舞台にした2016―2017のコレクションより)
まずはパオラ・ナヴォーネのプロフィールからご紹介します。
イタリア、トリノ出身で、1973年にトリノ工科大学の建築学科を卒業。
その後ミラノに移り、当時イタリアの革新的前衛デザインを牽引していたアレッサンドロ・メンディーニやエットレ・ソットサス、アンドレア・ブランジらも所属するデザイン集団「アルキミア」で働き研鑽を積んでいきます。
既に世界で活躍していた巨匠とともに仕事をするという環境は、今に繋がる彼女のデザイン手法に大きな影響をもたらし土台を形成していったと云ってもいいでしょう。
その後、世界の名だたるブランドとコラボレーションを手掛けるように。
ARMANI CASA(アルマーニ・カーザ)、Knoll International(ノール)、Swarovski(スワロフスキー)、ALESSI(アレッシー)…その他にも誰もが一度は耳にしたことのある数々のブランドのデザインに関わっていきます。
そうした過程を経て1998年、遂に彼女の代表的な仕事の場となるイタリアの家具ブランド「GERVASONI」(ジェルバゾーニ)のアートディレクターに就任。現在進行形でソファーをはじめ新たな家具を発表しています。
そしてその間にも住宅やホテル、バーといったインテリアプロジェクトも数多く手掛け、ドミニク・キーファーの二代目クリエイティブディレクターへと繋がっていきました。
どんな経緯でドミニク・キーファーに?
「ドミニク・キーファー」はもともとはフランスのブランドで、2001年にイタリアのルベリ傘下に加わりました。自然なものを好むパオラ・ナヴォーネは、以前よりこのブランドの一番のお得意様でもありました。彼女はテキスタイルのデザイナーではなかったのですが、これまで長年にわたり家具やインテリアのデザイナーとして活躍してきた経験と、また、自然素材を活かしたモノ作りを行う精神がドミニク・キーファーと相通ずるところがありルベリ社よりオファーをしたのだそうです。
その後のドミニク・キーファーでの仕事は、ドミニク・キーファのカタログの全てに詰まっています。百聞は一見にしかず、きっと目で見て感じて頂けると思います。
これまでのコレクションカタログは、下記のリンク画面からご覧いただけます。
歴代のコレクションカタログ(MANASのサイトを離れます。またカタログはPDFでの閲覧となりますのでご了承くださいませ)
ここに登場するロケーション、スタジオなのかと思いきや彼女が内装を手掛けた家であったり、さりげなく写る背景の小物も彼女のお気に入りの「魚」のモチーフだったり。ぜひ世界観も一緒にお楽しみください。
そしてもうひとつ。
11月にMANASのHPに商品検索サイト「interior library」がOPENし、それぞれの商品の詳細がご覧いただけるようになりました。
その中でTOP画面に定期更新されるオリジナルの「Playlist(プレイリスト)」には、現在パオラ・ナヴォーネも取り上げられていますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
それでは前編はここまでに。
次週更新する後編では、ここからさらに3つのキーワードにスポットをあて、パオラ・ナヴォーネのバックボーンに迫ってまいりたいと思います。
【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス
【The Story】vol.2 ニナ・キャンベル
【The Story】vol.3 マシュー・ウィリアムソン
9月より毎月1人の人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーを
東京・名古屋・大阪のショールームブログよりリレー形式でお届けしています。
3回目となる今回の主役は、Matthew Williamson(マシュー・ウィリアムソン)。
お洋服がお好きな方は、もしかするとご存知でしょうか。
彼の本職は、ファッションデザイナーです。
(MATTHEW WILLIAMSONオフィシャルサイトより)
自身の名前をブランドネームにした“MATTHEW WILLIAMSON”は、ハリウッド女優のシエナ・ミラーや英国王室のキャサリン妃など、世界中の有名人やセレブからも愛されています。
独創的なデザインセンスが評価され、5年前にOsborne&Little(オズボーン&リトル)と契約。インテリアの世界でもその才能を発揮していきます。
9月にイギリスで開催されたインテリアの祭典「Decorex International」の会場でも、
マシュー・ウィリアムソンが手掛けたインスタレーションは、一際存在感を放っていました。
背景の壁紙やテーブルクロス、クッションは、新作の『BELVOIR』コレクションが使用されています。
ボヘミアンな雰囲気をまとったアーティスティックなデザインと、万華鏡のようなカラフルな色使いで「色の魔術師」とも称される彼。その経歴と魅力をご紹介しましょう。
華々しいデビュー
1971年にイギリスのマンチェスターで生まれたマシュー。
17歳になるまでを地元で過ごし、ロンドンにあるデザインの名門Central Saint Martins(セントラル セントマーチンズ)大学へ進学しました。
ここでファッションとテキスタイルデザインを学び、卒業後はフリーデザイナーとしてMARNI(マルニ)などのブランドで経験を積み、1997年に会社を設立。
その年の9月に発表したデビューコレクション「Electic Angels」は、有名モデルのケイト・モスが着用したことで話題を呼び、ランウェイを彩る鮮烈なカラーのファッションは業界に大きなインパクトを与えました。
Electic Angels(MATTHEW WILLIAMSONオフィシャルサイトより)
2005年にはイタリアブランド、EMILIO PUCCI(エミリオ・プッチ)のクリエイティブディレクターにも就任。
40代の若さでは異例の早さでファッション界での地位を確実にしていきます。
インテリアの世界へ
そして5年前からオズボーン&リトルとのコラボレーションで、インテリアファブリックと壁紙のデザインを手がけるようになりました。
ファッションと同様、彼のデザインの魅力は細部までこだわりを感じるアーティスティックなプリントと天性のカラーセンスです。デザインのインスピレーションには、アジアや南国などイギリス人の彼から見てエキゾチックな国が影響を与えていることが多いのも特徴と言えます。
2016年の『DURBAR』コレクションでは、インドの物語の挿絵や、刺繍で表現されたなペイズリー柄などが見られます。
革命前とキューバをテーマにした、2015年の『CUBANA』コレクションでは、ヤシの木やフラミンゴなどトロピカルなプリントが展開されています。
今年の新作『BELVOIR』コレクションには、日本の扇子をモチーフにしたデザインも。
孔雀の羽やトンボなど、マシューがお気に入りのデザインは、ドレスの生地に使われたプリントをアレンジしてカーテンの生地や壁紙が作られることもあります。
最近は英国を代表する老舗ソファブランド「DURESTA(デュレスタ)」ともコラボレーションをしたり、ステーショナリーのデザインも行ったりと、活躍の幅をさらに広げています。
(MATTHEW WILLIAMSONオフィシャルサイトより)
※家具やステーショナリー、洋服の弊社での取扱いはございません。
一見ダイナミックで個性的に見える彼のデザインですが、絶妙なバランスで世界観がまとまっているのは、細部にわたって繊細な表現がされているからこそ。これだけ巧みに美しい色を使いこなせるデザイナーは、世界でもわずかではないでしょうか。
実際の生地や壁紙を手にとってご覧いただくと、彼の情熱とプロフェッショナルな姿勢をより感じていただけると思います。
インテリアをファッショナブルに楽しみたい方、マシューの魔法にかけられてみてはいかがでしょう。
気になられた方はぜひお近くのショールームまでお越しください。
過去の記事はこちらよりご覧ください。
【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス
【The Story】vol.2 ニナ・キャンベル
本日11月10日発売『Casa BRUTUS』12月号(№213)にご注目を!
本を手にしたら、まずは表紙の見開きのページをチェックくださいね。
そしてテキスタイルの特集の中に『ドミニク・キーファー』のクリエイティブディレクター、PAORA NAVONE(パオラ・ナヴォーネ)が登場しています。
実は少し前に名古屋ショールームにあるこちらの「OUTCROSS」(アウトクロス)も、この雑誌の撮影のためにしばらくの間出張しておりました。(もちろん、東京、大阪ショールームも同様に)
そこで今回のブログでは、誌面に登場するファブリックの一部をここで少しだけ補足紹介したいと思います。
ぜひ雑誌のページと合わせてご覧くださいませ。
Outcross(アウトクロス) 17260
水彩画タッチのプリントで、タータンチェックを連想させる立体感のあるモチーフに仕上げられています。7色展開のどれもがなんともいえない絶妙な色合わせです。
Acquerello(アクエレッロ) 17251
100%リネン生地。インクジェットのプリント技術によって生まれた色の表情が風合いとなりデザインのエッセンスとなっています。ろうけつ染めをどこか思い起こさせるアジアな雰囲気があります。
Kusa(クサ) 17250
ソフトで滑らかな手触りのベルベット。商品名「クサ」は最近「GINZA SIX」でも脚光を浴びた、水玉模様を多く使用することでも知られているアーティスト、草間彌生さんからとられ、またデザインのインスピレーションも得ているそうです。
Netnet(ネットネット) 17252
もともとのデザインの柄が細かいため、雑誌の写真ではぼんやりと写っている生地です。
実はこんな刺繍柄のデザインだったのですが気が付かれましたか?
色違いには秋の季節にぴったりな柿色も。
このネットネットは、カーテンだけでなくこんな小物にしてみるともっと生地の魅力を引き出せるような気がします。
さて、雑誌に登場するこれらのユニークなファブリックのデザインしたパオラ・ナヴォーネってどんな人物なのでしょう?ちょっと気になりませんか??
彼女については以前に大阪ブログでもご紹介していましたが、12月の【The Story】であらためて詳しくご紹介していく予定です。どうぞお楽しみに。
ちなみに誌面に登場しているソファー、これも彼女が長年アートディレクターを務める「GERVASONI」(ジェルバゾーニ)のもので、大きなソファーはドミニク・キーファの生地でカバーリングされています。
もし雑誌でドミニク・キーファーのファブリックが気になりましたら、東京、大阪、名古屋ショールームでは実際に手にとってご覧いただけます。是非最寄りのショールームでお確かめくださいませ。
この雑誌の中には、モリスの生地など他にもいろいろと紹介されています。ぜひ隅々までチェックしてみてくださいね!
マナトレーディングでは、30を超える数の海外ブランドを取り扱っております。
そのなかには世界的に有名なデザイナーや建築家が携わっていることをご存知でしょうか?
9月より6回にわたり毎回1人の人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーをご紹介しているシリーズ。
第2回は東京ショールームよりこちらの女性をご紹介いたします。
彼女の名前はNina Campbell (ニナ・キャンベル)。
現代の英国スタイルを代表するデザイナーとして世界中で活躍をする彼女に、
ロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館の評議員は敬意をこめて、
「世界的に最もスタイルに影響を与えた女性」の称号を与えました。
2013年『BRAEMAR』コレクション 2013年『ROSSLYN』コレクション
ニナのデザインは、エレガントかつ軽やかな華やかさがあります。
そのデザインレシピはクラシックな建築様式や伝統装飾など膨大な知識量に基づいたスマートな感性と、
彼女がこれまで旅した世界中の美しい風景や動植物たちから受けたインスピレーション。
そして隠し味には彼女ならではのウィットなエッセンスがひとさじ。
そこから生み出される独自の色彩とモチーフはもちろん、彼女のデザインが世界中で愛されているのは、
女性らしいロマンチックさなのかもしれません。
それではこれまでの作品と共に彼女の経歴をご紹介しましょう。
My Favorite Things 1. ― スコットランドの思い出 ―
1945年、ニナ・キャンベルはイギリスの名門氏族キャンベル家の令嬢として誕生します。
幼少期を過ごしたスコットランドは、ニナに多くのインスピレーションを与えました。
冒頭でもご紹介した2013年発表のコレクション『BRAEMAR』『ROSSLYN』に込められているのは、
湖畔にある古城、渓谷を彩る季節の花々、邸宅のあるロマン地区でのパーティやピクニックの思い出。
『ROSSLYN』コレクション 『BRAEMAR』コレクション
揺れる木漏れ日や、森に漂う花の香りまで感じられるようです。
2015年に発表した『FONTIBRE』では彼女の叔父であり水彩画家でもあった
キートリー中尉の作品をオマージュした壁紙「Keightlys Folio」をデザインしています。
『FONTIBRE』コレクション
My Favorite Things 2. ― 幸せな空間を分かちあうこと ―
ヒースフィールド女学院を卒業後、19歳でイギリスでも最古参のデザイン事務所
Sybil & Colefaxに就職したニナは、そこで才能を開花させます。
彼女のそこでの主なプロジェクトは個人邸は勿論、歴史的価値のあるお城、
クラシックなカントリーハウスやホテルのインテリアデザインでした。
countryside hotel (30 Best Interior Design Projects by Nina Campbell より)
これらのプロジェクトで高い評価を得たニナは1974年独立、デザイン事務所を開設すると共に、
インテリアファブリックと壁紙のデザインを手がけていくことになります。
まずニナが手がけたのは自分の家でした。
彼女は自らの家をモデルハウスに、完璧にコーディネートと大切なものに囲まれた空間が、
人生にとって如何にかけがえの無いものかを表現していきます。
chelsea townhouse (30 Best Interior Design Projects by Nina Campbell より)
ニナが大切にしていることは、
「プライベートな空間が、その人にとって常に至福をもらたす空間でなければならないこと。」
住居をコーディネートするとき、彼女はクライアントとの親交に多くの時間を費やします。
それはクライアントのライフスタイル、大切なもの、普遍的な信念などのパーソナルを掌握することで、
彼らが世界中のどこに住もうとも、彼らにとって最上の空間を創造することができるとの確信があるからです。
chelsea galleries bedroom (30 Best Interior Design Projects by Nina Campbell より)
クライアントの個性を引きだし唯一無二の空間を作り上げる彼女の仕事は、やがて世界中から注目されるようになり、
彼女の元には常に世界中からコーディネートの依頼が舞い込みます。
イングランドに建てられた初の王室邸宅のデコレーターに選ばれたことをはじめ、
ヨルダン王室や、リンゴ・スター、ロッド・スチュアートなどの著名人もクライアントの一人です。
又、ホテルのデザインでは、ロンドンのサボイ・ホテル、ル・パルク・ヴィクトル・ユゴーや
ホテル・ド・ヴィニーといったラグジュアリーホテルのデザインでも成功を収めています。
country house hotel (30 Best Interior Design Projects by Nina Campbell より)
旅先においても、まるで自宅にいるような快適なプライベートを演出するホテルは、
様々な人々の生活に寄り添ってきたニナの真骨頂に触れられる場ともいえるでしょう。
My Favorite Things 3. ― 旅の思い出 ―
世界中を飛び回り、クライアント達との時間を過ごす中で彼女を魅了したのは、
旅先で訪れた建造物や初めて出会った動植物たちでした。
中でもとりわけ東洋のレリーフや、陶磁器に描かれる花々をモチーフにしたシノワズリテイストは、
ニナのコレクションでも度々目にすることができます。
2014年『CATHAY』コレクション 2010年『PARADISO』コレクション
その他にも世界各国のトラディショナルなデザインをニナのレシピでアレンジすると、
こんなにも表情豊かな空間が広がります。
2015年『FONTIBRE』コレクション
ジブラルタルで出会ったやんちゃなお猿さんは上品なトワレ柄に。
2012年『TALARA』コレクション
こちらのコレクションはペルーの古代アンデス文明からインスピレーションを得たもの。
アンデスの伝統的な織物のパターンをリズミカルなストライプに落とし込んだデザインがアクセントになっています。
そして昨年のコレクションではインド織物やヒンドゥ寺院のアーチが
現代的なカラーパレットとパターンで再現されています。
2016年『COROMANDEL』コレクション
コーディネートのし易さも考えられているのがニナのデザイン。
毎コレクションごとにインテリアのメインとなるデザインを中心に、
同色展開の幾何学柄や無地がバランスよく展開されています。
ファブリック・壁紙・家具にテーブルウェア・インテリアをトータルでコーディネートすることの
重要性を誰よりも理解しているニナだからこそ、
彼女のデザインは美しいだけでなく非常に実用性も備えているといえるのです。
2009年 『SYLVANA』コレクション
そして現在、
ファブリックと壁紙はOsborne & Little社に帰属しますが、
ニナは旅先で見つけたアンティークや自らデザインしたテーブルウェア、
家具をコレクトした自身のショップもオープンしています。
ロンドンのウォルトンストリートにある彼女のお店は30年以上も絶大な人気を誇っているそう。
ロンドンへお出かけの際は、是非ショッピングリストに加えてみては…?
Nina Campbell Shop HPより(※弊社での取り扱いはございません。)
My Favorite Things 4. ― 創造することの喜び ―
そんなニナも御年72歳。
パワフルな彼女の躍進劇はまだまだ続きます。
今年、イギリスで最も有名なインテリア雑誌『HOMES & GARDENS』のファブリックアワードにて、
ニナの最新作『LES RÊVES』コレクションが大賞を受賞しました。
20世紀を代表する画家アンリ・マティスの色彩への情熱と
ニナのインテリアデザインへの追求が共鳴した今作は、マティスの絵画のようなパステルカラーに、
とりわけニナの大好きなブルーとピンクをメインカラーに据えた、
ワクワクする色使いのコレクションとなりました。
2017年『LES RÊVES』コレクション
ニナのコレクションはいつも美しい色彩と、何よりデザインをすることへの喜びに溢れています。
彼女の創作意欲は衰えることを知りません。
もっとニナの事を知りたくなったら、ぜひ彼女のインスタグラムをご覧ください。
彼女のエネルギーの源を知ることが出来るかもしれませんよ。
My Favorite Things ― あなたのお気に入りは? ―
愛用のポットに、子供の頃に憧れたスコットランドの古城、南国の陽気なお猿さん。
旅先の骨董店で一目惚れした清朝家具に、インドの露店のタペストリー、
そして画家だった叔父の残した絵画たち・・・。
彼女のコレクションを見ることは、その美しく彩られた記憶を覗きみること。
ニナの愛おしい思い出がつまったデザインに、自らの記憶を重ねるとき
それはあなたにとっての、新たなお気に入りのひとつになる可能性を秘めています。
ぜひあなたのお気に入りを見つけに来てくださいね。
Nina Campbell Instagramより
【The Story】vol.1 ウィリアム・モリス
マナトレーディングでは、30を超える数の海外ブランドを取り扱っております。
そのなかには世界的に有名なデザイナーや建築家が携わっていることをご存知でしょうか?
これから6回にわたり毎回1人の人物を取り上げ、ブランドにまつわるストーリーをご紹介してまいります。
東京・名古屋・大阪のショールームブログより
月に1話ずつの更新を予定しておりますので、どうぞ楽しみにお待ちください。
第1回目の人物は、
日本でも有名な「William Morris(ウィリアム・モリス)」です。
モリスは非常に豊かな才能の持ち主で、多才な顔を持っていました。
詩人、作家、画家、デザイナー、社会主義者など、多くの分野で才能とセンスを発揮し、
特にデザインの分野では「モダンデザインの父」「アーツ&クラフツの創設者」と称されています。
その魅力はとても一度では語りつくせないほど。今回はデザイナーとしてのモリスに注目し、
デザインに目覚めたきっかけからモリス商会を設立するまでのストーリーにスポットを当ててご紹介してまいります。
1834年、イギリスの裕福な家庭に生まれたモリスは、幼少期は自宅の広大な庭園と森で多くの時間を過ごしました。
そこで触れ合った自然の草花や鳥たちは、モリスのデザインの源流となりました。
19歳になったモリスは、聖職者を志してオックスフォード大学に入学します。
そこで生涯の友人となる、エドワード・バーン=ジョーンズと出会ったことが
モリスの運命を大きく変えるきっかけとなりました。
彼とゴシック建築の教会や中世の思想を学ぶうちに、美術や建築に目覚めたモリスは、彼とともに芸術を志すようになるのです。
そして彼とロンドンで共同生活を送りながら画家を目指していたとき、さらなる運命の出会いを果たします。
ラファエル前派(※1)の芸術家グループでモデルをしていた、ジェーン・バーデンとの出会いです。
彼女の美しくエキゾチック な雰囲気に一目惚れをしたモリスは、周囲の反対を押し切ってプロポーズします。
「麗しのイゾルデ」 モリスが描いたジェーンの油絵
25歳の時にモリスは彼女と結婚し、仲間たちとともに新居「レッドハウス」を建てました。
中世ゴシックを思わせる煉瓦造りの2階建てのこの家は、
親友の建築家フィリップ・ウェップが設計し、モリスたちはステンドグラス、壁紙、家具や内装、調度品を自分たちでデザインし、一から製作しました。
当時のイギリスは産業革命により、大量生産された粗悪品までが出回っていた時代。
モリスが理想とする、自然の美しさを職人の手で表現したインテリアはありませんでした。
1862年第2回ロンドン万国博覧会で出展品が受賞すると、その内装や調度品はたちまち評判を呼び、これを機にモリスは仲間たちとともにモリス・マーシャル・フォークナー商会を設立。
本格的にデザインの道へと進んでいきます。
商会設立後、最初にデザインした壁紙が「トレリス」「デイジー」「フルーツ」です。
トレリス
レッドハウスの庭にあるバラの垣根を描いたもの。
モリスは意外にも鳥を描くのが得意ではなく、この鳥はウェップが描いています。
デイジー
平面的で規則的に配置された中世風のデザインは、写実的な装飾画が主流だった当時には新鮮でした。
ジェーンが刺繍した同じモチーフの布の壁掛けは、「レッドハウス」の寝室に飾られていました。
フルーツ
ザクロやレモンなど4種類の果実が描かれたもの。よく見ると地にも模様が描かれています。
2層のデザインはモリスの特長のひとつで、この後の作品に多く見られます。
3つの作品は、150年以上経った今も壁紙として現存しており、世界中で愛されています。
人の暮らしの中に美を目指したモリスでしたが、高価で時間のかかる天然染料やハンドプリントにこだわったことで、モリスのデザインは一部の富裕層にしか行き渡りませんでした。
今ではハンドプリントならではの風合いも機械で表現できるようになり、お求めやすい価格で販売されています。
モリスの遺した有名な言葉があります。
「役に立たないものや、美しいとは思わないものを家の中に置いてはならない」
本当の意味での美とは何か、沢山のものであふれる現代において、何を大切にものを選ぶべきか考えさせられる一言です。
今回ご紹介したのはモリスの功績のほんの一部ですが、
モリスという人物やデザインに少しでも興味を持っていただけましたら嬉しく思います。
次回は東京ショールームブログより「ニナ・キャンベル」編をお送りします。
どうぞお楽しみに。
※1 ラファエロ前派
1848年にイギリスの画家ロセッティーやミレーなどが起こした芸術運動であり、そのグループの名称。
ルネサンス盛期のラファエロ以前の画家を理想として、自然に忠実な観察や輝かしい色彩の使用などを提唱した。